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『なめらかな社会とその敵』を読んだ

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0402-2

鈴木健『なめらかな社会とその敵』を読みました。

本書の内容をざっくりと。
世界は政府という「核」と国家という「膜」の作用によって単純化されている。
それは人々が扱う情報の増大によって認知コストが膨らみ、本来複雑である世界を複雑なまま観ることが出来なくなってしまったからだという。

しかし筆者は、近年のインターネットやコンピューター、中でも特にソーシャルネットワークの登場などの技術進歩により、複雑な世界を複雑なまま「網」の様に生きることが可能になると述べる。そして人々が複雑性の中生きる社会のことを「なめらかな社会」と呼び、その実現の為に必要な貨幣制度・投票制度・法律軍事制度について自説を展開する。

話の内容自体は非常に難しく、新奇な制度やアイデアが多いと感じた。多分読んだ人は誰でも一度は「こんな抜本的な転換は無理だ」と感じると思う。
しかし筆者は本書で25世紀を想定した世界秩序を提案しており、インターネットの技術が日進月歩で進む今日、200年300年スパンではこのようなパラダイムシフトも起こりえるのではないかと個人的には感じました。

また現在では当然とされている貨幣制度、民主主義、社会契約論などの限界を明らかにし、その代替案を定性的ではなく数式を用いて定量的に主張している点も面白かったです。
今まで当たり前だと感じていた諸制度は、あくまで暫定的なものに過ぎず、代替制度によって取って代わられる可能性も多いにあるという考え方は新鮮だった。

以下、本書を読んでいて特に興味深かった箇所について個別に取り上げていきます。

価値伝播的価値判断

通常、財の価値は取引が成立する前に決定されているもの。
しかし価値伝播的価値判断では、財の価値は所与として与えられるのではなく、取引が行われた後にその財の影響度などを考慮して逆算的に価値判断をしようとする考え方。
つまり、財が多くの人に伝播し影響を及ぼした場合には財の価値は高まり、そうでない場合は財の価値が低下するというものです。
筆者は価値伝播的価値判断は情報財との相性が良いと述べます。なぜならば情報財は容易に複製・リミックスされ、そのリミックスが連鎖してくからです。卑近な例で言うと『進撃の巨人』がニコ動で多くのMAD(二次創作)の素材となっているみたいな感じです。TwitterのRTによる拡散もこれにあたりますね。
こうした特徴を持つ情報財では、財の価値をあらかじめ決めることは難しいので、取引が成立した後の財の影響力に応じた価値を付与することが妥当だとしています。

線形投票

通常、投票においてはあらかじめ与えられたいくつかの選択肢の中から自分が適当だと思う選択肢を選び、投票します。
しかし筆者は、本当の自由とは与えられた選択肢を選ぶことではなく、自ら選択肢を創造することであると述べます。そうした主張から生まれるのが線形投票です。

線形投票においてはそうした個人一人一人の選択肢を生み出すことが可能です。
例えば税制について採決をとるとき、所得税の累進課税の度合いをどのようにするのが適切かを決めるとすると、人々は容易されたタッチパネルの専用デバイスに指を当てて動かすと、その奇跡が投票となる。

例えば上の図の様に横軸縦軸をとると、右肩上がりに線が描かれると累進課税制であり、横直線1本だと低率税制となる。
最終的に投票された全線型図形の近似値をとって採決とすることができます。
これにより実質的に死票というものが無くなると筆者は述べています。

これはかなり新しい投票方式で、課題は色々とありますが、原理的にはこんなやりかたもあるんだなと思いました。

分人民主主義 Divicracy

分人民主主義とは現在の民主主義に変わる新しい統治制度であり、投票制度です。
分人とは1個人よりも小さい単位のアイデンティティを表しています。
分人民主主義は、1人1票制という「1個の個人は一貫した行動をとるものだ」という思想から自由になり、「1個の個人の中に内在する矛盾を受け入れる」ことを目指した制度。
この投票制度では人は自分に与えられた一票を少数単位にまで分割することが出来ます。
そしてある背反する議題AとBについて「0.4票はAに、0.6票はBに」といった投票行動が可能になります。
こうすることで、1個人の中の死票を無くす(分人の意見を全て反映する)ことが可能になります。
また分割した投票権はソーシャルネットワークを介して他人に譲渡することもできます。

さらに筆者は選挙権をその国家の国民だけに限定せず、誰しもが自分に与えられた一票を世界中の国の政策について分割して投票できるという構想を述べています。
これにより、国籍に捉われること無く、誰しもが自分が本当に関心があるコミュニティに関する議題の意思決定に関わることができるようになり、なめらかな社会が実現するとしています。
ここで挙げた考え方はまだまだ本の一部であり、断片的なものであります。
本書ではあらゆる社会制度において、ソーシャルネットワークを利用してなめらかな社会を実現する為の提案がなされています。
今はまだ突飛なものばかりに見えるかもしれませんが、コンピューターがもたらした革新は現在当然とされている社会制度を根本から変えてしまう力があるのではないかと考えさせられる文章でした。

インターネットやコンピューターの歴史的位置づけの変遷など、自分の知らないことがたくさん書かれていて、目から鱗という気持ちで一気に読み進めることができました。

 

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