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書評『君たちはどう生きるか』―自由を謳う現代で再び注目が集まる、生き方の北極星

切腹を代表とする「死に方」に重きが置かれていた江戸時代が終わり、明治以降の今日においてまでは「生き方」がその人の価値を表すようになりました。

1937年に刊行されたのち近年は漫画版が発売されるなど、発売から約80年の時を経て再び注目を集める『君たちはどう生きるか』。この本の持つ普遍的な価値を認識すると同時に、「生き方」というテーマに対し時代を超えていかに多くの人がその答えを模索しているのかが伺い知れます。

かくいうぼくもこの本を手に取ったきっかけは自分の「生き方」を改めて見つめ直したかったから。

小・中・高・大学とそれまでは、年を経るにつれて周囲の友人が自分と同じ考えを持っているという感覚がなんとなくありました。

でも社会人になってからはそれまで同じだと思っていた友人と、働く環境も仕事観もライフステージもどんどん変わっていく。当たり前のことだし、だからといってその友人との間柄が変化することもありません。

ただこれまで同じレーンを走っていると思っていた伴奏者が、もう自分とは交わることのない道を歩んでいる。その事実に一抹の不安を覚えるとともに、自分の生き方をもう一度じっくりと相対化できればというタイミングで出会ったのが『君たちはどう生きるか』という本でした。

 

『君たちはどう生きるか』が刊行された時代について

『君たちはどう生きるか』が刊行された1937年は日中戦争が開始され、ヨーロッパではムッソリーニやヒトラー政権が誕生した時代。

そんな軍国主義の時代にあって、日本の少年少女に自由で豊かな文化を伝えることを目的に全16巻からなる『日本少国民文庫』が編纂されました。『君たちはどう生きるか』はその中で倫理を取り扱った1冊として刊行。

自由な表現活動が弾圧されつつある時代の中で、筆者がこの本にどんな思いを託したのか。そんなことを想像しながら読み進めると、言葉の1つ1つがより真に迫ってきます。

 

本編は2部構成の物語で進行

『君たちはどう生きるか』の本編は1話ごとにコペル君を中心とする物語、そしてコペル君の良き理解者であるおじさんがコペル君に宛てた「おじさんのNote」という2部で構成。

中学生のコペル君の精神的成長をテーマに、おじさんとコペル君が手紙を通して会話しながら「人はどう生くべきか」を考えるというのが大まかな概要です。

―人類の進歩に結びつかない英雄的精神も空しいが、英雄的な気魄を欠いた善良さも、同じように空しいことが多い。

―正しい道義に従って行動する能力を備えたものでなければ、自分の過ちを思って、辛い涙を流したりはしないのだ。

おじさんのNoteで語られる、おじさんからコペル君への言葉は簡潔だけど力強い。貧しい豆腐屋の友人とのやりとりや、大切な友達を裏切ってしまった後悔などを通して、徐々にコペル君は精神的に成長していきます。

 

「君たちは、どう生きるか。」問いかけで終わるラスト

コペル君を主人公としたストーリーに沿って進む本書。しかし物語の最後は、筆者から読み手に対して「君たちは、どう生きるか。」という唐突な問いかけで終わります。

この本を通してコペル君の生き方から何を学び、何を思うのか。そこからもう自分の「生き方」が始まっているのかもしれません。

「人はみな自由であるべきだ」という主張がことさらに叫ばれる時代。でも自由であるがゆえに人は迷い、自由であるがゆえに「生き方」にはその人の人となりが色濃く現れます。

『君たちはどう生きるのか』が今また脚光を浴びているのは、何もかもが自由な時代にあってその自由さに迷うぼくたちが、目指すべき北極星をこの本に求めるからかなと感じました。

読みやすい文章でサラッと読めるので、毎日になんとなくモヤモヤを感じている人はぜひ手に取ってみてください。

 

 

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